【教科書を読める子を育てるために──新井紀子氏の読解力育成の実践と成果】

はじめに:読解力は「国語」だけの話ではない
子どもの学力が伸び悩む理由として、意外と見落とされがちな「読解力の不足」。
読解力とは、単に国語の点数を上げるためのスキルではありません。
それは“すべての教科を理解するための土台”であり、
教科書を正確に読み取る力こそが、学習成果を左右すると言っても過言ではないのです。
この考えを日本全国に広め、実践と検証を行ってきたのが、国立情報学研究所の新井紀子氏です。
今回は、新井氏の理論をもとに、実際に成果をあげている自治体の取り組みを紹介しながら、
“本当に意味のある読解力育成”とは何かを探っていきます。
読解力を可視化する「RST」とは?
新井紀子氏が開発した「リーディングスキルテスト(RST)」は、
子どもたちがどれだけ文章を正確に読み取れているかを測定するツールです。
RSTでは、次のようなスキルを6つの領域に分けて評価します:
- 係り受け関係の理解
- 指示語の理解
- 照応関係の把握
- 否定文や二重否定の処理
- 論理的な構造(因果関係、対比など)の把握
- 数学的・科学的文の理解
このテストによって、「教科書を読めていない」問題が数値として可視化されるのです。
実践例1:福島県相馬市──全校的な取り組みで全国平均超え
福島県相馬市では、市内の全小中学校でRSTを導入。
読解力育成を市の教育方針の中心に据えた結果、
ある小学校ではわずか2年で読解力スコアが全国平均を大きく上回るようになりました。
子どもたちの成績だけでなく、教員の指導方法の質も向上。
「読ませる」指導から、「読めているかを確かめる」指導へとシフトしたことで、
授業の密度と理解度が格段に上がったと報告されています。
実践例2:新潟県燕市──読解力+認知力の複合支援
新潟県燕市では、読解力だけでなく、
子どもの「認知機能(注意力・記憶力・空間把握力)」にも着目。
RSTと並行して「コグトレ(認知トレーニング)」を導入することで、
より包括的に子どもの“読み取る力”を育てています。
また、新井紀子氏を招聘した教員向け研修や保護者向けの講演も実施され、
地域全体で“読む力”の重要性が共有されるようになりました。
実践例3:鹿児島県西之表市──読解力強化で学力テスト上位に
鹿児島県西之表市のある小学校では、RSTの導入をきっかけに授業改善を進めたところ、
全国学力テストの成績が県内上位にランクインするという成果が出ています。
特に文章題の読解ミスが減少し、「問題をちゃんと読めば解ける」
という自信が子どもたちに芽生えたと、現場からは手応えの声が上がっています。
読解力育成の教材と取り組み内容
新井紀子氏の読解力育成の方法は、教材にも反映されています。
代表的なものに『新井紀子の読解力トレーニング』シリーズがあり、
- 視写(教科書の正確な書き写し)
- 接続語や指示語に注目する問題演習
- 文構造を把握するチェックシート
など、子どもたちの“読む技術”を徹底的に育てる内容となっています。
また、東京書籍などの大手教材会社と連携し、
RSTの結果を元に指導計画を立てる仕組みも広がりつつあります。
おわりに:読解力は“すべての学び”の入口
読解力が育っていない状態では、いくら塾に通っても、
応用問題に挑戦しても、知識は身につきません。
その逆に、“教科書が読める子”は、自分で考え、理解し、応用できるようになります。
教育の現場で、保護者の家庭で、まず見直すべきは
「本当に、うちの子は教科書を読めているのか?」という問いです。
今、全国の自治体がそれに本気で取り組み始めています。
その成果が確かに出始めている──。
だからこそ、私たち教育者も保護者も、
読解力を“当たり前の基礎力”として、子どもたちの未来の土台に据えていきたいですね。