【子どもが教科書を理解できない本当の理由】教科別「学習言語」のちがいとは?

はじめに:なぜ「教科書が読めない子」が増えているのか?
「家では元気におしゃべりしているのに、学校の勉強がなかなか身につかない…」
「読書は好きなのに、テストになると読めていない…」
そう感じたことのある保護者の方も多いのではないでしょうか。
実はこの背景には、「生活言語」と「学習言語」という2つの言葉の世界の違いがあります。
そして、子どもたちは日常的に使っている“話し言葉(生活言語)”とは別に、“勉強で使う言葉(学習言語)”を新たに習得していかなければならないのです。
このことを「学習言語のマルチリンガルになる」と表現したのが、教育界で注目されている新井紀子氏です。今回は、その考え方をもとに、教科ごとに子どもが向き合っている“言語のちがい”をわかりやすく解説します。
学習言語とは?生活言語とのちがい
生活言語とは、家庭や友達との日常会話で使われる、感覚的で文脈に頼った言葉のやりとりです。
例:「やばい」「あれ取って」「うん、わかったよ」
一方、学習言語は、教科書や授業、テストで使われる“文脈に頼らず意味を伝える言語”です。
例:「次に、溶解度の違いを調べるための実験を行う」
このように、学習言語では抽象的な表現、論理的な構造、専門的な語彙が求められます。
子どもは教科ごとに異なる学習言語に適応していかなければならず、これが「教科ごとに読み方が変わる」理由なのです。
教科ごとにちがう「読む力」:学習言語の特徴とは?
それでは、実際に教科ごとに子どもたちはどのような“読む力”を求められているのでしょうか?以下に具体的に見ていきましょう。
● 国語の学習言語
- 物語文:登場人物の心情を、直接書かれていない描写から読み取る必要があります(例:「○○は黙って立ち去った」→怒っている?傷ついた?)。
- 説明文:「まず〜」「次に〜」「つまり〜」などの構成語句を通じて、論理構造をつかむ必要があります。
- 設問:「筆者の主張は?」「この文章の要点は?」など、要約力や論理的整理が求められます。
● 算数・数学の学習言語
- 定義やルール:「〜は〜である」「AならばB」といった論理記述を正確に読み解く必要があります。
- 文章題:「りんごが1個120円で3個買った」→「いくらか?」という問いから条件を抜き出し、数式に変換するスキル。
- 専門用語:倍、割合、角度、速度などの用語理解も読解の前提になります。
● 理科の学習言語
- 因果関係:「水は加熱すると沸騰する」など、A→Bという明確な関係性を読み取る力が必要です。
- 実験手順:「まず試薬を入れて、次に加熱する」といった手順と理由の記述を読み解く力。
- 考察文:「なぜこの現象が起こったか?」という問いに答えるために、文中の論拠を見つける力。
● 社会の学習言語
- 制度や構造の説明:「三権分立とは」「幕藩体制とは」など、抽象的な語句を正確に理解する力が求められます。
- 因果関係の説明:「江戸時代に人口が増えた理由は?」といった問いに、文中の因果を読み取って答える。
- 複雑な語彙:「租税」「外交」「立憲主義」など、生活言語には出てこない語彙への対応力が必要です。
● 英語の学習言語
- 語順の違い:英語特有の「主語→動詞→目的語」という構造を正確に理解すること。
- 接続詞の活用:「because」「but」「so」などで文のつながりを追う力。
- 文法の理解:時制・助動詞・疑問文構造など、文法の知識を活用しながら読む力が問われます。
まとめ:子どもは教科ごとに“ちがう読み方”をしている
私たちはつい「国語ができれば、他の教科も読めるはず」と思いがちですが、実際はそうではありません。
- 国語は国語の読み方
- 理科は理科の読み方
- 社会は社会の読み方
子どもたちは、教科ごとに異なる学習言語=「教科のことば」に向き合っています。そしてそれを読みこなせるようになるためには、「量をこなす」のではなく「読み方の違いに気づかせる指導」が必要なのです。
学習につまずいていると感じたとき、それは単に“知識が足りない”のではなく、“読み方が合っていない”可能性があります。
まずは「どの教科で、どの読み方につまずいているのか?」を丁寧に見つめることから始めてみてください。